サブエージェント設計とは、判断を担うディレクターと、手を動かすワーカーへ役割を分ける構成です。何を渡し、何体まで並列で動かし、結果をどう統合するかを決めないまま始めると、重複作業や抜けが起きます。本記事は、公式ドキュメント5件と自社の委譲ルールの実例から、判断基準を1本にまとめます。

01結論:サブエージェント設計は、判断をディレクター1体に残し、作業をワーカーへ渡す設計です

結論は3点です。

  1. サブエージェント設計は、何を渡すかより先に「何を渡さないか」を決める設計です。判断・突合・人間ゲートの管理はディレクターに残します。
  2. 並列数は多いほど速いとは限りません。目安の本数を超えると、統合の手間が並列化の利益を上回ります。
  3. 統合時の失敗は、重複・抜け・上書きの3パターンに集約できます。パターンごとに対策が違います。

Anthropicは、中央のLLMがタスクを動的に分解し、ワーカーLLMへ委譲する構成を提唱しています(出典: Anthropic公式)。その中央LLMが結果まで統合する形を「オーケストレーター・ワーカー」パターンと呼びます。本記事はこの構成を、ディレクターとワーカーという呼び方で扱います。

02サブエージェントはどう役割分担するのか|ディレクターとワーカーの違い

Claude Codeの公式ドキュメントは、サブエージェントを独自のコンテキストウィンドウを持つ存在と定義しています(出典: Claude Code公式)。専用のシステムプロンプトとツールアクセス、独立した権限で動く点も明記されています。親の会話とは別の文脈で動き、要約だけを返す設計です。

コンテキストを分ける理由は、コストにも表れます。Anthropicの計測では、マルチエージェント構成は通常のチャット対話に比べて約15倍のトークンを消費します(出典: Anthropic公式)。ディレクターが全文を読み込むのではなく、ワーカーが自分の担当範囲だけを読み、要点だけを返す設計にするのはこのためです。

委譲の形にも種類があります。OpenAI Agents SDKは、2つの委譲パターンを区別しています(出典: OpenAI公式)。司令塔役が主導権を握ったまま専門エージェントを道具として呼ぶ「manager pattern」と、主導権そのものを渡す「handoffs」です。サブエージェント設計は前者に近く、成果を返した後もディレクターが主導権を握り続けます。

この構成には、事前に決めた手順どおり並列で流す「parallelization」との違いもあります。Anthropicは、オーケストレーター・ワーカーパターンは、どう分割するかを中央のLLMが実行のたびに動的に決める点で異なると説明しています(出典: Anthropic公式)。事前に必要なサブタスクを予測できない、複雑な調査やコーディングに向くという整理です。

AIエージェントそのものの定義は『AIエージェントとは|そう呼べる3条件と、呼べない境界』で扱っています。本記事は、AIエージェントを複数体で動かすときの役割分担だけに絞ります。

観点ディレクターワーカー
担う判断タスク分解・委譲先の決定・成果の突合割り当てられた1タスクの実行
保持する文脈セッション全体の文脈を保持する独立したコンテキストウィンドウのみ持つ
使う権限人間ゲートの管理を含む広い権限用途ごとに絞った最小限のツールのみ
失敗時の影響範囲止まると全体の進行が止まるそのワーカーの担当範囲に閉じる
サブエージェント設計の全体像は、委譲・報告・失敗時の再委譲をどう流すか サブエージェント設計の全体像図。中央にディレクターを置き、周囲に調査・執筆・雑務の3種のワーカーを配置する。ディレクターから各ワーカーへ実線矢印で委譲が向かい、各ワーカーからディレクターへ実線矢印で成果報告が戻る。ワーカー同士を結ぶ矢印はなく、全経路がディレクターを通る。並列実行中に1体が失敗すると、点線の矢印でいったん隔離し、ディレクターが再委譲を判断したうえで、別のワーカーへ再割り当てする経路を示す。 STRUCTURE サブエージェント設計の全体像 →委譲/←報告/点線=失敗時のみ ワーカー同士は直接つながらない(全経路はディレクター経由) 調査ワーカー 執筆ワーカー ディレクター判断・委譲・突合 雑務ワーカー ! 隔離一時停止 再委譲判断 ワーカー同士は直接つながらず、失敗時の再委譲もディレクターを経由する
サブエージェント設計の全体像図

03サブエージェント設計の判断基準|ワーカーへ委譲する4つの条件

委譲するかどうかは、作業の性質で決めます。判断や設計そのものが要る仕事はディレクターに残し、作業量が支配的な仕事はワーカーへ渡します。

作業の性質ディレクターが担うかワーカーへ渡すか
複数ファイルの通読・横断調査担わない渡す(調査系ワーカー)
まとまった文章のドラフト執筆担わない渡す(執筆系ワーカー)
決まった型への大量整形担わない渡す(雑務系ワーカー)
委譲先の設計・成果の突合・最終判定担う渡さない
送信・公開・削除・決済などの人間ゲート担う渡さない

委譲した先が空振りしない条件は、公式ドキュメントでも一致しています。Anthropicは、各ワーカーに「目的・出力形式・使うツールと情報源の指針・タスクの境界」の4点を与えるべきだと述べています(出典: Anthropic公式)。境界を渡さないまま「半導体不足を調べて」とだけ指示すると、範囲がぶれます。

WEBMARKSの委譲ルールは、この4点をさらに実務の型に落としています。委譲プロンプトには次の6項目を含めます。

  1. ゴール:何を作るか、何を調べるかを1文で渡す
  2. スコープ:やってよい範囲とやってはいけない範囲を明示する
  3. 入力:読むべきファイルパスやURL、前提条件を具体的に渡す
  4. 出力形式と保存先:どの形式で、どこに置くかまで指定する
  5. 制約:人間ゲート・未確認の数字の扱い・機密の扱いを明記する
  6. 返し方:作った成果物の場所と要点だけを返させ、全文を再掲させない

判断に迷ったときの目安は、手戻りコスト×不確実性です。設計や曖昧さの解消が要る仕事はディレクターに残し、作業量が支配的な仕事はワーカーへ渡します。人間ゲートに触れる操作の線引きは『AIエージェントの承認ゲート|送信・公開・削除で止める仕組み』で扱っています。

並列ワーカー数を増やすと、スループットと統合コストはどう変わるか 並列に投入するワーカー数と実効スループットの関係を示す概念図。横軸はワーカー数1体から10体、縦軸は低・中・高で表す相対的なスループット。序盤は右肩上がりに伸び、4〜6体の範囲で頭打ちになったあと、統合コストの増加で下がる。右側の注記には、Opus主導・Sonnetワーカー構成が単体Opusを90.2%上回った実測値と、マルチエージェント構成が通常のチャット対話比で約15倍のトークンを消費する実測値を、出典とともに示す。曲線の形は概念図であり実測値そのものではない。 TREND 並列ワーカー数とスループットの関係 概念図(実測値ではない) 目安 4〜6体 1 4 6 10 横軸:ワーカー数(体)/縦軸:実効スループット 90.2% Opus主導+Sonnet単体Opusを上回る 約15倍 トークン消費量(通常対話比) 出典:Anthropic公式 スループットは4〜6体で頭打ちになり、それ以上は統合コストが利益を上回る
委譲判断の2軸マトリクス図

04並列数の決め方|サブエージェントを同時に何体動かすか

並列数は、多ければ速いという単純な関係にありません。Anthropicの実測では、Opusをリード役・Sonnetをワーカーに使う構成が、単体のOpusを90.2%上回りました(出典: Anthropic公式)。同じ資料は別の実測として、リードを3〜5体並列起動しツールも並列で呼ぶ設計に変えたところ、複雑な調査の所要時間を最大90%短縮したとも報告しています。単純な事実確認なら1体で3〜10回の道具呼び出しに収まり、複雑な調査でも「明確に役割を分けた10体超」を上限の目安に挙げています。

一方で、増やしすぎたときの副作用も明記されています。同資料は、ワーカー同士が調整できず、1体の完了待ちで全体が止まる問題を指摘しています(出典: Anthropic公式)。Claude Codeのチーム機能に関する公式ドキュメントも、チームサイズは「3〜5体から始める」ことを推奨しています(出典: Claude Code公式)。「集中した3体のワーカーは、散漫な5体より成果を出すことが多い」とも述べています。

WEBMARKSの委譲ルールも、同じ結論に達しています。独立したタスクを並列で投げるとき、同時最大で実務上4〜6本を目安としています(2026-07-24制定の社内ルールより)。多すぎる場合は、統合コストが並列化の利益を上回ると判断しているためです。社外の公式資料と自社の運用目安が、ほぼ同じ本数に収れんしている点は、この目安がどちらか一方の癖ではないことを示します。

タスクの量とワーカー数の比率にも目安があります。Claude Codeの公式ドキュメントは、1ワーカーあたり5〜6件のタスクを持たせると、手待ちが減ると説明しています(出典: Claude Code公式)。15件の独立タスクなら、まず3体で始める計算になります。

委譲判断は、不確実性と手戻りコストの2軸でどう変わるか 委譲判断の2軸マトリクス図。横軸に不確実性の低から高、縦軸に手戻りコストの低から高を取り、4象限に分ける。左下は不確実性・手戻りコストとも低く、即ワーカーへ委譲する。右下は不確実性が高いため、境界を決めてから委譲する。左上は手戻りコストが高いため、ディレクターが設計してから一部だけ委譲する。右上は両方とも高く、ディレクターが担い委譲しない。各象限には、その位置で委譲を誤ると起きやすい失敗を重複・抜け・上書き・全パターンとして併記する。 MATRIX 委譲判断は、不確実性と手戻りコストの2軸で決まる 手戻りコスト 不確実性 ディレクターが設計してから一部委譲 起きやすい失敗:上書き ! ディレクターが担う(委譲しない) 起きやすい失敗:全パターン 即ワーカーへ委譲 起きやすい失敗:重複 境界を決めてから委譲 起きやすい失敗:抜け 手戻りコストと不確実性の位置を誤ると、象限ごとに違う失敗が先に起きる
並列に投入するワーカー数と、スループット・統合コストの関係を示す折れ線グラフ

05サブエージェントの結果統合で起きる3つの失敗パターン

結果統合は、並列化の恩恵をそのまま受け取れる工程ではありません。Anthropicは、初期の構成で「ワーカーがタスクを誤解する」「複数のワーカーが全く同じ調査を繰り返す」という重複が起きたと報告しています(出典: Anthropic公式)。同資料はさらに、ワーカーが作業を重複させたり、抜けを残したり、必要な情報を見つけられなかったりする失敗を総称しています。

失敗はもう1種類あります。ファイルの奪い合いです。Claude Codeのチーム機能に関する公式ドキュメントは「2体のワーカーが同じファイルを編集すると上書きが起きる。各ワーカーが違うファイル群を担当するよう分割すべきだ」と明記しています(出典: Claude Code公式)。

自社でも同種の事故が実際に起きています。姉妹メディアのAIO Journalでは、監視用の常駐プロセスと本体セッションが同じ記事ファイルへ同時に書き込む事故が起きました(メディア設計書に記録・2026-07-28時点)。結果として、記事3本が上書きされました。

原因は、範囲の宣言なしに複数の実行主体が同じ対象へ手を出したことです。以後は、着手前に範囲を宣言するファイルを作り、宣言のない範囲には着手しない運用に変えています。

失敗パターン症状主な原因対策
重複作業同じ調査・同じ執筆を複数ワーカーが繰り返すタスクの境界が曖昧なまま並列投入した委譲時にスコープを明示し、重ならないよう分割する
抜け(ギャップ)どのワーカーも担当していない範囲が残る分解時に境界を決めず、感覚で割った分解の合計が元タスクを覆っているかを突合する
上書き同じファイルを複数の実行主体が同時に書き換える範囲宣言なしに複数が同じ対象へ触れた着手前に範囲を宣言し、宣言のない範囲は触らない

3パターンに共通するのは、統合の直前ではなく、委譲の設計段階にすでに原因があることです。統合で気づいて直すのではなく、委譲時に境界を決め切ることが、統合を壊れにくくする唯一の方法です。

06子エージェントへの委譲設計|本メディアの執筆・原典照合・批評をどう分担しているか

本メディア自体が、この分業の実例です。WEBMARKSの委譲ルールは、上位モデルをディレクターに固定する構成を定義しています(2026-07-24制定)。実働は、日本語ドラフトの執筆・Vault内外の裏取り・機械的な整形という3種類の子エージェントへ渡します。

この記事自体も、その1本です。ディレクターが記事IDとテーマを委譲プロンプトの形で渡し、執筆役の子エージェントである本稿の書き手が、公式ドキュメントを実際に取得しながら書いています。品質ラインの中身は『AIが書いた記事をAIが差し戻す|公開前チェック5段階の中身』で開示しています。

規模も実測できます。本記事の執筆時点で _work/02_記事/ には記事ファイルが積み上がっており、直近の実測(2026-07-28、ファイル一覧のカウント)では20本を超えていました。複数の執筆ワーカーが並行して書き込んでいるため本数は数えるたびに変わり、確定値は公開直前に数え直します。第1弾50本という計画に対し、複数の執筆役を順に投入して積み上げている途中の状態です。

WEBMARKSのAI社員体制は、7部署・30体の役割定義を2026-06-24に統合したものです。実働の子エージェントには、次の権限を渡していません。

  • 削除・強制上書きにつながるコマンドを実行する権限
  • 送信・公開・決済など対外的に確定する操作の権限
  • 人間ゲートを経由せずに正式版へ書き込む権限

権限を絞る設計は、Claude Codeの公式ドキュメントが示す考え方と一致します。サブエージェントの定義ファイルは、許可するツールを一覧で絞り込むtoolsフィールドを持ち、指定しなければ利用可能な全ツールを継承します(出典: Claude Code公式)。次はその考え方を一般化した例です。

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name: research-worker
description: 一次情報の裏取りに使う。書き込みはしない
tools: Read, Grep, Glob, WebFetch
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WriteEdittoolsに含めなければ、このワーカーはファイルを書き換えられません。権限は後から広げるのではなく、最初から狭く始めるのが安全な設計です。

07サブエージェントの委譲でつまずきやすい3つの点

1つ目は、判断そのものをワーカーへ渡してしまうことです。委譲先の設計や成果の突合まで任せると、誰も全体を見なくなり、矛盾に気づく人がいなくなります。

2つ目は、並列数を増やしただけで安心することです。公式ドキュメントは、テストと隔離環境での確認を欠かさないよう注意を促しています(出典: Anthropic公式)。本数を増やす前に、1体あたりの委譲プロンプトが4条件を満たしているかを先に確認します。

3つ目は、ディレクター自身が手を動かし始めてしまうことです。Claude Codeの公式ドキュメントも、リード役が委譲を待たずに実装を始めてしまう傾向に注意を促し、待つよう指示し直す運用を挙げています(出典: Claude Code公式)。

4つ目は、渡した権限を後から広げてしまうことです。WEBMARKSの委譲ルールは、実働の子エージェントに人間ゲート級の権限を後から足さないことを明記しています(2026-07-24制定)。最初に狭く決めた境界を、動作確認のたびに緩めていくと、設計した意味そのものが薄れます。

08サブエージェント設計を始めるチェックリスト

  • ディレクターとワーカーの役割を、判断と作業で明確に分けたか
  • 各ワーカーへの委譲プロンプトに、ゴール・スコープ・入力・出力形式・制約・返し方の6点があるか
  • 並列数は目安の範囲(4〜6体前後)に収め、統合コストが利益を上回っていないか
  • ワーカーの成果を、ディレクターが必ず突合してから統合しているか
  • 複数の実行主体が同じ対象へ同時に手を出さないよう、範囲を宣言する仕組みがあるか
  • ワーカーに送信・公開・削除・決済などの人間ゲート級の権限を渡していないか
  • 統合後の成果物に、重複・抜け・上書きが残っていないか確認したか

09FAQ

サブエージェント設計は何体から始めればいいですか

1体からで構いません。委譲プロンプトの4条件(目的・出力形式・情報源の指針・境界)を満たせるかを、まず1体で確認してから並列数を増やすほうが安全です。

ディレクターとワーカーは別のAIモデルを使う必要がありますか

必須ではありません。同じモデルでも役割は分けられます。ただし判断が要る工程に上位モデル、作業量が支配的な工程に下位モデルを割り当てると、コストを抑えやすくなります。

サブエージェントとエージェントチームは何が違いますか

報告先が違います。サブエージェントは結果をディレクターへ返すだけですが、エージェントチームはワーカー同士が直接やり取りします(出典: Claude Code公式)。調整が要らない仕事はサブエージェント、議論が要る仕事はチームが向きます。

並列数を増やせば増やすほど速くなりますか

いいえ。目安の本数を超えると、調整のやり取りが増え、1体の遅れが全体を止める場面も出てきます。まず4〜6体前後で試し、統合にかかる時間を測ってから増減を判断します。

ワーカーに渡す権限はどう決めればいいですか

最初から狭く始めます。読み取りと調査だけで足りる仕事には、書き込み権限を渡しません。人間ゲートに触れる操作は、権限をどれだけ広げてもワーカーには渡しません。