AGIとは何かを一言で説明しようとすると、聞く相手によって答えが変わります。本記事は代表的な一次情報3件の定義を出どころごとに並べ、業務文脈で起きやすい意味のずれを整理します。実務でどこまで進んだかは『AGIは業務でどこまで来たか【2026年7月時点】』に譲ります。

01AGIとは|3つの一次情報に共通する定義の核

AGI(Artificial General Intelligence)という語は1997年の論文が初出です。出典はDeepMindの論文が引用するGubrud, 1997です。OpenAI・DeepMind・Anthropicという有力な開発元3社の一次情報を見ても、AGIが「何をもって達成とするか」の重心はそれぞれ異なります。次章から出どころごとに整理します。

02AGIの定義はどこから来たのか|OpenAI・DeepMind・Anthropicの3つの一次情報

OpenAIは2018年の憲章で、AGIを「経済的に最も価値のある仕事において人間を凌駕する高度に自律的なシステム」と定義しました(出典: OpenAI公式)。

Google DeepMindの研究者ら(Morris et al.)は2023年11月、既存9定義を分析した論文(ICML 2024採択)を発表しました(出典: arXiv)。「性能(depth)」と「汎用性(breadth)」の2軸で段階的に測る枠組みを提案しています。

AnthropicのCEOダリオ・アモデイは2024年10月のエッセイで、AGIという語自体を避けると明言しました(出典: Dario Amodei公式サイト)。理由は「不正確で、SF的な誇大広告を伴う」語だからです。代わりに「powerful AI」を具体的なチェックリストで定義しています。

出典発表時期定義の核測り方
OpenAI憲章2018年経済的に価値のある仕事で人間を上回る自律システム経済価値という単一の指標
DeepMind「Levels of AGI」2023年11月(ICML 2024採択)性能×汎用性の2軸で段階を測るLevel0〜5の6段階分類
Anthropic(Dario Amodei)2024年10月用語自体を避け「powerful AI」を採用専門性・自律時間など5項目の具体チェックリスト

3社に共通するのは「人間の熟練者を上回る、幅広い仕事をこなす自律性」です。異なるのは、経済価値・段階・具体チェックリストという測り方です。

AGI定義の測り方は、発表年ごとにどう変わってきたか 横軸に2018年のOpenAI憲章、2023年11月のDeepMind「Levels of AGI」論文、2024年10月のAnthropicダリオ・アモデイ氏のpowerful AI提唱という3つの時点を時系列に並べる。各時点の直上に、その定義が測ろうとした軸を示す。OpenAI憲章は経済価値という単一指標、DeepMindは性能と汎用性の2軸6段階、Anthropicは具体的な能力チェックリストで判定する。本文の比較表には無い発表年の時間軸を加え、定義の重心が経済指標から段階分類、さらに具体チェックリストへ移ってきた流れを示す。結論帯は「AGIという言葉に単一の定義は無い」と述べる。 TIMELINE AGI定義の測り方は、発表年ごとにどう変わってきたか OpenAI・DeepMind・Anthropicの3つの一次情報を時系列に並べる 経済価値 単一指標で判定 性能×汎用性 2軸6段階で判定 具体チェック 5項目で個別判定 1 2 3 2018年 OpenAI憲章 2023年11月 DeepMind論文 2024年10月 Anthropic AGIという言葉に単一の定義は無い 経済価値→段階(6レベル)→チェックリストへ、測り方自体が動いた
AGIの定義の重心が発表年ごとにどう動いたかを示す年表×比較軸の図

03AGIの到達度はどう測るのか|DeepMindが提案する6段階

DeepMindの論文は、性能を「Level0:AIでない」から「Level5:Superhuman」までの6段階に分けます(出典: arXiv)。各段階は、特定領域に強い「Narrow」と幅広い認知タスクをこなす「General」の2種類でも評価します。次の表は各段階の目安と実例です。

レベル性能の目安Narrow(特定領域)の例General(汎用)の到達
Level0 No AI基準なし電卓・コンパイラ人間参加型コンピューティング
Level1 Emerging未熟練の人間以上GOFAI・単純なルールベース論文が2023年時点の例として挙げたChatGPT・Bard(当時)・Llama2・Gemini
Level2 Competent熟練者の上位50%Siri・Alexaなど未達(2025年9月の最新版でも)
Level3 Expert熟練者の上位10%Grammarly・Dall-E 2など未達
Level4 Exceptional熟練者の上位1%Deep Blue・AlphaGoなど未達(旧名Virtuoso)
Level5 Superhumanあらゆる人間を上回るAlphaFold・StockFishなどASI(人工超知能)・未達

論文は、既存の多くの定義がこの表の「Competent AGI」に最も近いと位置づけています(出典: arXiv)。ただし判定用の公式ベンチマークはまだ提案しておらず、個々の最新モデルを厳密にどの段階と判定するかの基準はありません。

04汎用人工知能という訳語がもたらす読み替えのずれ

OpenAI憲章の公式な日本語版は、AGIを「汎用人工知能(AGI)」と表記しています(出典: OpenAI公式)。訳語自体は正確ですが、日常語としては「何でもできる」という漠然とした形容にも読めます。

この読み替えは他社事例だけの話ではありません。運営元WEBMARKSも例外ではありません。本メディアの企画段階では「AGI(AIエージェント・AI社員)特化型オウンドメディア」と表記していました(メディア設計書1.1、2026-07-28時点)。AGIをAIエージェントやAI社員の総称のようにカッコ書きした形です。

学術的な定義では、AIエージェントは目標を渡すと手順を自分で決めて動く「実行の型」を指す語です。AGIは、その実行の型がどこまでの性能と汎用性に達しているかという「到達度」を指す語で、両者は階層が違います。企画名としての言い換えを否定はしませんが、精度が要る場面では違いを意識してください。

05AGIとは呼べない使い方|業務文脈でのズレ3つ

業務文脈で「AGI」という語に出会ったとき、学術的な定義とずれているケースが3つあります。

使われ方学術定義との関係実例
社名・サービス名としてのブランド語到達度の主張ではなく、名称としての比喩的な使用当メディア自身の名称・企画書の表記
AIエージェント/AI社員の言い換え実行の型や運用形態を指す語であり、到達度を指すAGIとは階層が違う『AIエージェントとは|そう呼べる3条件と、呼べない境界』が定義する3条件と混同されやすい
「何でもできる」ことを示す誇張表現DeepMindの枠組みでは「Competent AGI」より上はまだ未達断定的な誇張は景品表示法が禁じる誇大広告と同じ構造のリスクを持つ

3つ目のズレは社外向け資料で特に注意が必要です。「AGIだから何でも任せられる」は、DeepMindの枠組みでは未達の段階を達成済みかのような表現になりかねません。到達度を語るときは、後述の判定基準で言い換えてください。

会話や資料で「AGI」という語に出会ったとき、どう判定するか 「AGIという語に出会う」を起点に、まず性能や到達度の主張かを判定する。主張であればDeepMindのLevelsのどの段階かを特定できるかをさらに判定し、特定できれば学術文脈として扱い、できなければ断定せず保留する。主張でなければAIエージェントやAI社員の言い換えかを判定し、そうであれば言い換え元の定義(AIエージェントの3条件など)に読み替え、そうでなければ定義不明のまま使われている状態であり、警告色で強調する。本文の一覧表には無い条件分岐の軸を加え、読者が自分の場面にその場で当てはめられる判定ツールにした。 BRANCH 会話や資料で「AGI」という語に出会ったとき、どう判定するか AGIという語に出会う 性能や到達度の 主張をしているか はい いいえ DeepMindのLevelsの 段階を特定できるか AIエージェントや AI社員の言い換えか はい いいえ はい いいえ 学術文脈として 扱う 特定できないなら 断定せず保留する 言い換え元の定義に 読み替える 定義不明のまま 使われている 『定義不明』に着地したら、出典を確認してから使う 本文の一覧表には無い『条件分岐』の軸を足し、その場で判定できるようにした
会話や資料で「AGI」という語に出会ったときの判定分岐図

AGI・AIエージェント・AI社員は到達度・実行の型・運用形態という別の軸です。詳しくは『AIエージェントとは|そう呼べる3条件と、呼べない境界』『AIエージェントとAI社員の違い|責任範囲をどこで切るか』に譲ります。

06AGIの周辺用語|ASI・強いAI・powerful AIとの位置関係

用語一言でいうとこの記事のどこに効くか
AGI性能と汎用性が人間の熟練者以上に達した自律システムを指す到達度の言葉本記事全体の主題
ASI(人工超知能)DeepMindの枠組みでLevel5・全人類を上回る性能を指す到達度表の最上段
強いAI(Strong AI)意識や理解を機械が持つかを問う哲学的な立場AGI定義史の初期の一系統
powerful AIAnthropicのダリオ・アモデイCEOがAGIの代わりに使う語業界内でAGIという語自体を避ける動きの例

ASI・強いAI・powerful AIは、AGIと混同されやすい周辺語です。到達度・哲学的立場・用語選択という違う軸を押さえておくと混同を避けられます。